フォロワー

普段は食べないけど、定期的にふっと食べたくなるものってみんなあると思う。唐突に特定の食べ物が食べたくてたまらなくなるやつ。あのときの感覚と同じように、ときどき無性に文章を書きたくなることがある。でも、そういう日ってたいてい一日が何も起きずに終わって、心が物足りなさを感じているときだから特に書くことがない。そういうわけもあって、今日は以前から書こうと思っていたこと、”インターネットで知り合った人と現実で会うことに対する僕のスタンス”について書こうと思う。

 

僕がパソコンやインターネットにハマってからもう15年になる。父親が会社から家に持ってきた古いパソコンに夢中になっていた10歳の少年は、大学院で人工知能を研究し、ソフトウェア開発を仕事にするまでになった。

 

コンピュータが僕の人生で重要な役割を果たすようになった一方で、インターネットもまた僕が生きていく上でその影響力を増していった。去年と今年に至っては現実の友達よりツイッターのフォロワーに会った回数のほうが多くなった。

 

でも実は、最初からそうだったわけじゃない。僕は昔ネットで知り合った人と会うことを嫌悪していたし、それどころかskypeで通話することすら拒否していた。出会い厨や馴れ合い厨はインターネットをつまらなくする元凶だと思っていた。お互いの素性を明かさず、現実で関わらず、人間関係を築かず、文字だけで勝負しておもしろいことを言う奴が最高だし本物だと信じていた。というのは当時の建前で、僕はネットでもコミュ障で人と仲良くなる方法がわからず、みんなが仲良くしてるのが悔しかったので叩いていた。当時のツイッターを見るとフォロワーたちが馴れ合ってるのを尻目に独り言率が90%を超えていて悲しすぎる。しかも馴れ合ってるのを叩くから余計に孤立していて哀れだった。

 

とはいえ、当時高校二年生の僕も考えた。毎日こんなにツイッターに時間を費やしているのに、ツイートはあんまり伸びないし、フォロワーともあまり関わりがない。それどころかフォロワー同士が仲良くしているのを見てストレスがたまる。楽しくない。このままでいいのか?不毛すぎないか?ツイッターをやめるべきか?でもそしたら今まで費やした時間が無駄すぎる……。

 

そこで僕は今までと方針を変え、フォロワーと仲良くすることに努めることにした。ただし、もちろん軟弱な馴れ合い厨になるつもりなどない。あくまでおもしろくて冴えてる会話を交わすためだ。と自分に言い訳して……。

 

もちろんフォロワーに空中リプにしろ普通のリプにしろ話しかけるのはかなり緊張した。相手からしても今まで全然絡んで来なかったやつが絡んでくるんだからなんだ?となるだろう。でもがんばった。よくフォロワーに絡まれてる人のツイートを観察してノリや内容を真似したりもした。すぐにいろんなフォロワーと仲良くなり、僕は馴れ合い厨と化した。正直やるのが苦痛だったツイッターが楽しくなってきて、今までよりもっと多くの時間をツイッターに費やすようになった。

 

そうなると次は”ツイッターやりまくってるけど時間の無駄では……?”という気持ちになってくる。じゃあツイッターをやって手に入れたものってなんだろう?と考えてみると、フォロワーたちとの関わりだな、と思った。同時に、でもただのネットでちょっとやりとりしただけの人たちなんだよな、と思い、むなしくなってきた。ツイッターをやっててよかったと思えるとしたら、それは立場も住む場所も全然違う人達と関われることだけど、それはネット上だけの関係では限界がある。このころ僕は19歳で、自分がオフに出ようとしないのは”出会い厨はクソだから”ではなく”自分が人と会うのが怖いから”だと気づいていた。自分の10代を虚無に費やしたことにしないために、僕はフォロワーと会う決心をした。

 

しかし、マジで怖い。僕はただでさえ人見知りが激しい。それにオタクだし、陰キャだし、オシャレとか全くわからないし、アニメとゲームとインターネットのことしか知らないし、相手が陽キャな感じの人だったら絶対つらい気持ちになる。その上2ch流れの腐れオタクとリアルで会うともなると、自分のコミュニケーション能力も心配しなきゃいけないし、晒される心配もしなきゃいけないし、犯罪に巻き込まれる心配もしなきゃいけない。オフ会から帰ったら会った人にブロックされてたら泣くし、イカついラッパーみたいなのが来てなんかクラブ?みたいなところに連れてかれても泣く。フォロワー2人と会う約束をした前日の夜から既に後悔していた。当日は変な汗が止まらなかったし、やっぱり最初はうまく喋れなかった(途中から慣れた)(相手がオフ慣れしてたからだと思うけど)。

 

でもやっぱり会ったほうがいいなと思った。ツイッターとリアルだと情報量が違いすぎる。慣れてくるとこのフォロワーはどんな人なのかな~と楽しむ余裕も出てきた(一度僕と同じ弱そうなオタクだろうと思ってたフォロワーが会ったらラッパーっぽい感じでびっくりしたこともあった。話してみたら普通にツイッターと同じノリだった)。それに、その人の暮らしや生き方を少しうかがい知り、ツイッターやってなかったら2人の人生が交わることはなく、絶対こうやって話すこともなかっただろうなあと不思議な気持ちを味わえる。よく大学生が海外に行って「視野が広がった」とか言ってるけどフォロワーと会ったほうが視野が広がると思う。僕の思いもよらないような世界で生きてきた人に何人も会った。まあ、別に視野を広げようと思ってフォロワーと会っているわけではないですが……。

 

フォロワーと会うのはいつも楽しい。好きな人しかフォローしていないから。まあ、フォロワーは僕と会ってつまんね~時間の無駄だったな~と思っているかもしれませんが……(これはいつもけっこう不安に思っている。僕はフォロワーと話がしたくて会ってるところがあるのでほっとくと無限にトークすることになるが、普通の人間はボウリングとかカラオケとかで遊ぶようなので)。

 

あなたも、もし仲の良いネットの友達がいたら会ってみると楽しいかもしれません。僕が古い価値観のオタクだから勝手にハードルを感じるだけでみんな普通に会ってるのかもしれないけど。もちろん犯罪に巻き込まれないよう注意する必要はあると思います。僕は男だし破滅願望があるのでわりとノーガードですけど……(突然のメンヘラアピールやめろ)。僕がわりと個人情報ガバガバでやってるのはそのへんの不安も少しでも減らせないかなという思いがあります。

 

僕も来年度からは社会人なのでもう気軽に遊んだりするのは難しくなるかもしれませんが、いろんな思い出ができてよかったです。ありがとう、フォロワー。