小説:るる

私とるるは二人でもうずっと長いこと公園のベンチに座っていた。お互い、言いたいことは山ほどあるはずだけど、ひとつも言葉にならずにただぼんやりと公園の風景を眺めていた。

 るるが突然立ち上がって、私のほうを向いて怒ったような表情で言った。

「りんちゃんはさ、悲しくないの?こうやって喧嘩するたびにあたしは悲しくなる。なんでりんちゃんのこと好きなのに喧嘩になっちゃうんだろうって」

るるは怒った顔のまま泣き始めた。私はどうしたらいいのかわからず、ただるるの顔を見つめていた。私がこういう時すぐにやさしい言葉をかけられる女の子だったら、今日も喧嘩しないですんだのだろうか。でも、私はいつも自分の気持ちや意見を伝えるのが下手だ。私だってるるのことが好きなのに、いつもうまくいかない。今日だって私が余計なことを言ったせいでるるを傷つけてしまった。私なんかと関わらないほうが、るるはずっと幸せなのかもしれない。

「もうさ、友達やめる?るるもつらいだけでしょ」

また声に出したそばから後悔する。どうしてこんな言い方になってしまったんだろう。今の自分の発言がるるにどう伝わるかは明白だった。

「……なんでそんなこと言うの!」

「違う、違うんだよ、るる。私だって友達をやめたくはないよ」

「意味わかんない」

「違うんだよ……」

またふたりとも黙ってしまった。唐突に、自分の言っていることは全部でたらめの嘘だから何も信じないで、と叫びたくなる。るるに向けた言葉だけじゃない。自分について話すときも、一度として私は私のことをちゃんと説明できたことがない。三者面談で進路について聞かれたときも、「国語が好きだから文系にする」なんて言ったけど、今思うと全然違う。でも、もっと他に理由があったはず……と考え直しても、いろいろ文系に進む理由は思いつくけど、そのどれもが言葉にした瞬間に嘘になってしまう。自分のことがわからない。何をしたいのか、どうしてそうしたのか、何が好きなのか、何もかもがあやふやで、どう組み合わせてもきちんとハマらないジグソーパズルのようにもやもやしている。どうして告白されたのに断ったのか、なんで担任の先生のことが嫌いなのか、ちょっとだけ早めに学校に来るのはなぜなのか、わからない、自分のしたこと、自分の考えてること、自分の感情、なにひとつわからない。担任の先生のことだって、本当は嫌いじゃないような気もする。好き嫌いひとつ自分ではわからない、そんな私に、るるに向かって言えることなんてひとつもない、だって私の中にたしかなものなんてひとつも、いや、違う、

 

「私、るるのことが大好きだよ」